伝えられる2016年1月6日の北朝鮮の核実験についての見解
安斎育郎(安斎科学・平和事務所/所長)
日本の気象庁は、2016年1月6日10時29分頃、ハムギョンプクド・キルジュ(咸鏡北道吉州、北緯41.2度、東経129.3度)付近を震源とするマグニチュード5.1程度の地震を観測したと伝えられる。同地は、北朝鮮が核実験場として利用してきたプンケリ(豊渓里)に近く、韓国当局もマグニチュード4.3、中国当局もまたマグニチュード4.9の地震を観測したと報道されており、核実験の可能性が疑われている。
核爆発の威力Y(キロトン)と誘発される地震のマグニチュードMとの間は、A,Bを定数として、Y=10^(M-B)/Aの関係があると考えられているが、A,Bの値はネヴァダ(アメリカ)の観測ではA=3.92, B=0.81 、セミパラチンスク(ロシア)の観測では、A=4.45, B=0.75とされている。今回観測された地震規模(M=4.3~5.1)に基づいて爆発威力を計算すると6~12キロトン程度と推定され、第3回目の原爆実験と同程度と推定される。
一方、北朝鮮当局が同日12時30分に特別重大報道としてテレビ発表したところによると、今回の核実験はこれまでの3回の「原爆」実験ではなく、「水爆」実験であるとしている。アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国の場合も、歴史的には、原爆開発に続いて水爆開発に走った経緯があるが、1954年のアメリカのビキニ環礁での「ブラボー」水爆実験が約15メガトン(第2次世界大戦の砲爆弾威力合計の約5倍)、1961年のソ連(当時)のノヴァヤゼムリヤでの「ツァーリ・ボンバ」水爆実験が約50メガトン(同約17倍)であったことにも象徴されるように、水爆は「威力の巨大化」が可能である点で原爆とは異なる。今回伝えられる地震のマグニチュードから推定される爆発威力は第3回原爆実験並だが、もしもこれが北朝鮮の意図通りのものだったとすれば、水爆の原理の実用化へのノウハウを手に入れたものとして、北朝鮮が新たな核能力を獲得したことを意味するだろう。
北朝鮮の核開発の主要な目的が、アメリカを交渉相手として国際舞台の正面に引き出すための瀬戸際作戦であるという性格は変わらないだろう。加えて、「永遠の総書記」と位置づけられているキム・ジョンウン氏の誕生日(1月8日)を前に、また、5月の第7回朝鮮労働党大会に先立って、キム・ジョンウン体制の権威を一層強固なものとする狙いもあるだろう。しかし、今回の核実験を「日本に対する直接的脅威」と見ることは、これまで同様、適切ではない。日本には「原発」という名の「核地雷」が数多く敷設されており、北朝鮮が日本に核の被害を与えようとすれば、日本海側に並んでいる原発に通常兵器を打ち込めば事足りる。何も、国際社会を敵に回して核兵器を開発する必要など全くない。したがって、北朝鮮の核兵器開発の基本は、「対アメリカ外交戦略の一環」としての性格が主であることを認識することが重要であり、いやしくも「対抗して日本も核武装を追求する」といった選択肢をとるべきではないし、こうした状況を「日本の安全保障環境の悪化」の理由づけに悪用し、国民を改憲や冒険主義的な軍事安全保障政策に向かわせることはとるべき道ではないと確信する。
核兵器を外交の手段として弄ぶ北朝鮮に対しては、軍事衝突への緊張関係を高める冒険主義的な政策を直ちに放棄することを求めるが、これまでも指摘してきた通り、こうした核兵器の拡散が止まらない背景には米ロを始めとする核保有国の「核抑止政策」があり、その転換なくして根本的な解決はあり得ない。核超大国が核拡散を批判することは、「ヘビースモーカーによる禁煙運動」と揶揄されてきたが、私は、友人であるロバート・グリーン氏(元イギリス海軍将校の反核活動家)が著書『核抑止なき安全保障』(かもがわ出版)において指摘しているように、核大国が「国家による信用詐欺」まがいの核抑止政策をきっぱりと放棄し、核兵器全面禁止・廃絶への人類史的大義の道に転換することを改めて強く求めるものである。
2016年1月6日
※注:北朝鮮の核実験 1回目:(2006年10月9日午前10時35分=1キロトン)、2回目:2009年5月25日午前9時54分=2~6キロトン)、3回目:(2013年2月12日11時57分=8~13キロトン)はいずれもプルトニウム原爆と見られたが、第4回目〈2016年1月6日11時29分=6~12キロトン〉は「水爆」と発表された)。