第17回平和のための博物館市民ネットワークが沖縄で開かれました
安斎育郎
さっき沖縄から帰ってきた。私が乗り合わせた帰りの奈良線の1車両に14人の乗客がいて、うち11人がスマホに向き合っていた。向き合っていなかったのは私と、私の前の座席の50歳代ぐらいのご婦人と、ドアを挟んだ向こう側の座席の同じく50歳代ぐらいのご婦人の3人だった。私が途中で目薬を点滴した時、蓋が私の視界の外に転がった。見失っていると目の前の件のご婦人がそっと指をさして蓋の在りかを教えてくれた。ご婦人が荷物を抱えて降りるとき、傍らの手すりに雨傘が取り残された。私がそれを指さして、「傘は違いますか?」と声をかけると、「私の傘じゃないんです。有難うございます」と言って降りて行った。お互いに自分の周囲にそれとなく目を配っているのだ。スマホ派にはない気配りなのかもしれない。そんなことは余計なお節介だと考えるか、そうした何気ない目配りや気配りこそスマホが奪いつつある人間性の一つの側面ではないかと感じるか。ひめゆり平和祈念資料館の前館長の島袋淑子さんから頂いた貴重な泡盛の重い瓶が入ったバッグを引きずりながら、ホッとした思いで宇治駅に降り立った。
家に帰ってメールを開くとたくさんのメールの中にミュージアム事務室からの「ガイドの竹林寿美子さんがお亡くなりになられました」という知らせが届いていた。ご子息が事務室に立ち寄られてお知らせ頂いたらしい。心より哀悼の意を表したい。
沖縄は、第17回平和のための市民ネットワーク全国交流会への出席のために行った。最近書いた『核兵器禁止条約を使いこなす』(かもがわ出版)と平和友の会の『野路菊のしおり』の行商も兼ねた。同じく出席する予定だった山根和代さんは関空発のフライトを予定していたため、結局行けなくなり、多くの出席者が残念がった。
私はトップバッターで「平和のための博物館国際ネットワーク(INMP)の現状と参加の呼びかけ」について15分間の報告をした。翌日が第52回原爆忌全国俳句大会だから、実行委員長の私は報告後40分ほどで会場を出、モノレールで空港に向かった。50人以上の人が那覇の真ん中の小さな市場街に埋もれたひめゆり同窓会館2階のシアターに集まった。世界に誇るべき日本の平和博物館運動の現場だと感じた。来年は中帰連(中国帰還者連絡会)で10月に開かれる予定になっているが、平和友の会も参加し報告することを期待したい。
私の報告の要旨は、以下の5点だった。
1.「平和のための博物館国際ネットワーク」(International Network of Museums for Peace, INMP)は世界の平和博物館を結ぶネットワークとして四半世紀をこえる歴史をもつ国連広報局認定のNPOである。
2.INMPの事務局は2018年6月末、オランダのハーグから立命館大学国際平和ミュージアムに移され、安斎育郎が新ジェネラル・コーディネータに選出された。また、山根和代氏が会計およびニューズレター編集担当の執行理事、安齋学氏(税理士)が会計監査、片山一美、キンバリー・コワルチェク、藤田明史の各氏がボランティアとして事務局業務をサポートする体制が発足した。
3.1992年の発足以来、ピーター・ヴァン・デン・デュンゲン氏のリーダーシップのもとで、日本の平和博物館関係者はINMPの維持・発展のために、組織・財政面を含めて極めて枢要な役割を果たしてきた。 第3回、第6回国際平和博物館会議は日本の平和博物館の協力によって開かれ、第10回大会(2020年)の日本開催が計画されている。
4.組織運営の民主性・透明性・トレーサビリティ、財政の健全性などの点でINMPが深刻な問題を抱えていることがつとに指摘されてきたが、安斎ジェネラル・コーディネータは 組織・財政活動の抜本的改革と活動の飛躍的活性化を推進しようとしており、その活動拠点としての日本の平和博物館関係者の一層の参画と力強い支援を必要としている。
5.INMP会員は日英両文のニューズレター(季刊)、ミニ通信“From General Coordinator’s Desk”(月刊)その他の出版物を通じて平和博物館情報を取得し、ニューズレターへの投稿や国際会議への参加を通じて国際社会に発信することが出来る。そして何よりも、会員となることを通じて世界の平和博物館の連携の活性化に貢献する栄誉を担う。(最後の「栄誉を担う」という言い方は「押しつけがましい」ことを承知の上で使った)私は弱弱しいINMPを再建し、持続的活動を展開するために、以下の活動方針を紹介した。
(1)運営原則:①民主性、透明性、トレーサビリティの順守、②ハーグ事務所閉鎖に連動する定款の再確立(2008年に日本で開催した第6回大会で採択した定款を基礎に)
(2)組織活動:①“Museums for Peace Worldwide”所載のすべての平和博物館への入会の働きかけ、②ニューズレターやウェブサイトを通じての平和ミュージアム関係者への入会の働きかけ、③魅力的な入会案内の作成、④魅力的な「INMP会員証」の発行(加盟館が館内に掲出できるようなeye-catchingなもの)
(3)財政活動:①法人・個人会員の拡大と会費納入の呼びかけ、②ウェブサイトやクラウド・ファンディングを通じての寄付の呼びかけ、③3か月ごとの理事・諮問委員に対する会計概況報告と、毎年の全会員に対する収支報告・監査報告
(4)運営:①地域コーディネタ(アジア太平洋/ヨーロッパ・アフリカ/南北アメリカなど)の設置、②理事の任務の明確化(会員拡大/会計/ニューズレター編集/ウェブサイト管理/企画/国際会議/選挙管理など)、③理事・諮問委員・一般会員のニューズレターへの投稿の奨励、④“From General Coordinator’s Desk”(月刊)の発行
(5)活動:①世界の会員館が提供できる(英語版)移動展示用パネルの国際調査(日本平和博物館会議は実施済み)、②核兵器/原発問題に関する30枚程度の電子版パネルの作成(第1案制作中)、③国際内外の漫画家による(戦争や平和をテーマとする)50~100枚程度の展示用「一コマ漫画」セットの作成と移動展の推奨、④国際平和博物館ツアーの組織(加盟館での入館料割引制度なども検討)、⑤加盟館で普及できるINMPグッズの開発(③などの企画と連動)、⑥第10回国際平和博物館会議(2020年)の日本開催(京都/広島での開催をめざして現在検討中/例えばメインテーマを「次世代への記憶の継承と平和博物館の役割」とすることなどを念頭に「学生平和サミット」を開催するなど新たな企画も検討/芸術・漫画など共催団体に相応しい企画)、“Museums for Peace Worldwide”の最新刊や平和博物館に関する記念出版物の刊行、など。
最後に「いよいよ新体制のもとで新たな活動を!日本の平和博物館関係者のリーダーシップなしには、INMPの持続的発展はあり得ない─これが世界の平和博物館運動の実情です」と、やや喚きたてたかもしれない。