平和友の会「世相裏表」2018年12月号原稿

流行語大賞「そだねー」に思う

安斎育郎

2018年の流行語大賞には2月の平昌オリンピックの日本女子カーリング・チームが作戦会議や試合で使っていた「そだねー」が選ばれました。「そうだねー」の北海道バージョンですが、意味は単純で、「相手が発したメッセージに同意する意思表示の言葉」(=そうですね)です。

日本には相手の意思に同意する意味合いの言葉が結構あります。だいたい別れの挨拶である「さようなら」も「そのようであるならば」という意味ですし、江戸時代の侍言葉「さらば」とか「しからば」と同じ意味合いです。現在使われている「それでは」とか「じゃあね」とかも、みんな似たり寄ったりです。

相手に寄り添う日本的な意識の持ちようや表現のありようは時として危険で、私には苦い思い出があります。1984年ごろでしたが、国連欧州本部の“United Nations Staff Movement for Disarmament and Peace”(国連職員軍縮・平和運動)の依頼でジュネーブの国連本部に講演に行った時のことです。講演前の時間帯にスタッフの一人(アルゼンチンでの弾圧を逃れて来たピアニストの女性)が周辺を案内してくれましたが、ある場所で「あなたの写真を撮ってもいいですか?」と聞いたところ、彼女が“I’m not photogenic”(私、写真映り良くないから)と言ったのです。今ならさしずめ「私、インスタ映えしないから」というところでしょうが、私はとっさに「そんなことはありません」というつもりで“No!”と言ってしまったのです。英語国民にとっては、「そう、あんたは写真が映り良くない」と断言されたようなもので、私の英語のセンスがホンモノではないことを暴露した一件でした。

さて、「そだねー」が流行語大賞に選ばれる予感はありましたが、実際にそれが選ばれてみると、「改憲安倍政権のありようを見て『そだねー』なんて言っていられないなあ」という思いも改めてこみ上げてきました。

12月5日、私は「9条改憲に反対し、安倍内閣の退陣を求める京都アピール」を志を同じくする14人の人々と発表しました。私は「よびかけ人代表」です。とりあえず名を連ねたのは、私のほか、飯田哲夫(医師)、岩井忠熊(立命館大学名誉教授)、岡野八代(同志社大学大学院教授)、須田稔(立命館大学名誉教授)、隅井孝雄(ジャーナリスト)、竹本修三(京都大学名誉教授)、野田正彰(評論家)、浜矩子(同志社大学大学院教授)、広原盛明(京都府立大学元学長)、益川敏英(京都大学名誉教授、名古屋大学素粒子宇宙起源研究機構機構長)、宮城泰年(本山修験宗管長)、宮本憲一(大阪市立大学名誉教授)、望田幸男(同志社大学名誉教授)の方々です。京都アピールの内容は、次の通りです。

「森友・加計問題にみられるように、安倍政権のもとで、国の政治を支える基本的な規範や倫理が揺らぎ、国家の私物化といわれる事態が進行しています。しかも、安倍首相は、憲法9条改憲に向けて国会での発議を行なうことを明言しています。

私たちは、こうした危機的な状況の中で、憲法9条の会権を阻止し、安倍内閣の退陣を実現することが現実の課題になっていると考えます。

そこで、私たちは、いま何よりも多くの人々が安倍内閣の即時退陣をめざしてともに声をあげ、共同の取り組みをすすめる必要があると考え、そのことを心から呼びかけるものです」

 

12月5日に京都府庁の記者会見室で開かれた会見には読売新聞、毎日新聞、京都新聞など5社が出席しましたが、その時に記者に配布した資料は以下の通りです。

 

9条改憲に反対し、安倍内閣の退陣を求める京都アピールの発表にあたって

最近の国会審議の状況や沖縄問題をめぐる動きを見ると、安倍政権の問答無用の姿勢があらわになってきています。

すでにご承知のことと存じますが、今年6月、世界平和ピール七人委員会が、「安倍内閣の退陣を求めるアピール」を発表していますが、これに呼応して京都でも「9条改憲に反対し、安倍内閣の退陣を求める京都アピール」を発表しようと考え、準備を進めてきました。

さきに述べた状況から、この時期に9条改憲に反対し、安倍内閣の退陣を求める京都アピールを発表することが重要だと考え、14人の連名でこのアピールを発表することといたしましたので、その旨お知らせいたします。

なお、さきの七人委員会のお一人である大石芳野さん(写真家)からは、京都アピールの発表にあたって、次のようなメッセージをいただいていますので、ご紹介いたします。

安倍政権を支持する人たちは「このままでいい」と言います。「憲法9条」を変えても、大地震のように直ぐには影響がなく「このまま」の日々でしょう。けれど、徐々に窮屈になり、やがて険悪な事態になる…そして、取り返しがつかなくなることは私たちの国の歴史が証明しています。国会を私物化したような政権を国民の政権に取り戻さなければなりません。地に足を付けた視点に立ち、想像力を働かせれば、今の状況がいかに危険であることか!

打開しなければ子どもたちの将来が不安です。

2018(平成30)年12月5日

京都アピールの呼びかけ人を代表して

安斎育郎

 ※注:世界平和七人委員会(武者小路公秀、大石芳野、小沼通二、池内了、池辺晋一郎、高村薫、島薗進)が2018年6月6日に発表したメッセージは以下の通り。

5年半にわたる安倍政権下で、日本人の道義は地に堕(お)ちた。

 私たちは、国内においては国民・国会をあざむいて国政を私物化し、外交においては世界とアジアの緊張緩和になおも背を向けている安倍政権を、これ以上許容できない。

 私たちは、この危機的な政治・社会状況を許してきたことへの反省を込めて、安倍内閣の即時退陣を求める。

記者会見の冒頭、私はよびかけ人を代表して以下のように発言しました。

 

 私は原子力科学であり、平和研究者である前に、一人の主権者としてここにいます。議院内閣制をとる日本では、立法府(国会)の構成員を直接選ぶ権利を私たち主権者はもっていますが、その国会が指名した内閣が政権与党ともどもどのような姿勢や行動をとっているかについて、私たちは当然関心をもたなければなりません。

 私の専門の視点から見るとき、まずは核問題に関して、①「唯一の被爆国」を標榜しながら、2017年7月7日に国連で採択された核兵器禁止条約に背を向け、核兵器廃絶に向けて強力なイニシャチブを発揮できないでいること、②朝鮮半島の非核化についても核戦争被害を体験した隣国としてイニシャチブを発揮できないでいること、③現在問題になっている米ロ間の「中距離核戦力全廃条約」の廃棄の危機についても被爆国の立場からのイニシャチブを発揮できないでいること、を挙げ、原発政策についても56回に及んでいる福島調査の経験を踏まえながら、事故原発をめぐる危機的な状況や「帰還困難区域」の重大な困難を解決する具体的な見通しもないままに「原発再稼働」路線をとっていることに言及し、安倍政権に「そだねー」とは言えない状況であることを述べました。

 また、私が昭和15年(皇紀2600年)生まれであることに触れて、その当時、「ものいえば唇寒し」で言論の自由が抑圧されて戦争への道を歩みつつあったことに言及し、大石芳野さんが「徐々に窮屈になり、やがて険悪な事態になる…そして、取り返しがつかなくなる」危険について喚起しました。

 最後に私は、このアピールは安倍内閣に向けられているものであると同時に、日本のすべての主権者に向けられたものであり、そろそろ目を覚まさなければならない危険な状況であることに注意を喚起しました。

 というわけで、今年の流行語から言えば、あの独特のイントネーションの「そだねー」のほっとする語感もさることながら、もう一つの流行語となったNHKのクイズ・バラエティ番組に登場する「チコちゃん」の決めぜりふ「ボーっと生きてんじゃねーよ!」の方が今の気分にぴったりすると思い直したことでした。

 

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