伝えられる北朝鮮の核実験についての見解

日本の気象庁は、2013年2月12日11時57分頃、北緯41.2度、東経129.3度の北朝鮮北東部で、マグニチュード5.2の地震を観測したと伝えた。震源は、かねて北朝鮮が核実験場として使用したハムギョンプクド(咸鏡北道)プンゲリ(豊渓里)に極めて近接し、予告通り核実験を行なったものと推定された。地震は韓国気象庁(マグニチュード5.0)、アメリカ地質調査所(USGS、マグニチュード4.8)、中国地震局(マグニチュード4.9)などによっても観測され、震源の深さが0㎞であることなどから判断して人工的な爆発によるものと判断された。核爆発の威力Y(キロトン)と誘発される地震のマグニチュードMとの間には、A,Bを定数として、Y=10(M-B)/Aの関係があると考えられているが、A,Bの値はネヴァダ(アメリカ)の観測ではA=3.92, B=0.81 、セミパラチンスク(ロシア)の観測では、A=4.45, B=0.75とされている。今回観測された地震規模(M=4.8~5.2)に基づいて爆発威力を計算すると8~13キロトン程度と推定され、威力は前2回の核実験よりも大きかったものと見られる。(注:北朝鮮の核実験 1回目:2006年10月9日午前10時35分=1キロトン、2回目:2009年5月25日午前9時54分=2~6キロトン。いずれもプルトニウム原爆と見られる)
韓国の李明博政権は直ちに国家安全保障会議を招集し、国防省が北朝鮮に対する警戒態勢を強化するとともに、米韓連合司令部も対北朝鮮情報監視態勢(ウォッチ・コンディション)を1段階引き上げた。

すでに知られているように、北朝鮮は、2012年12月12日に長距離弾道ミサイルの発射実験を行なったが、翌13日、国連安全保障理事会のルリシュキ議長(モロッコ)が「決議1718(2006年の核実験に対する決議)と決議1874(2009年の核実験に対する決議)に対する明白な違反」との議長声明を発表するとともに、年明けの1月23日には、同理事会として決議2087を全会一致で採択、北朝鮮が新たなミサイル実験や核実験を実施した場合には「重大な措置」を講じることを警告していた。一方、北朝鮮はこれまでも、ミサイル発射に対する安全保障理事会決議や議長声明に強く反発し、2度にわたって核実験を行なった経緯があり、国際社会は、北朝鮮が3回目の核実験を行うか否かについて動向を注目していた。2月12日、北朝鮮自ら、今回の核実験について「以前と違い、爆発力が大きいながらも、小型化、軽量化された原子爆弾を使って高い水準で完璧に進行された。多様化されたわれわれの核抑止力の優秀な性能が物理的に誇示された」と発表した。これが前2回のプルトニウム原爆とは異なるウラン原爆の開発を意味するのか否かについては、放出された可能性のある特有の放射性希ガスの分析が行われつつあるが、なお確定されていない。もしも今次核実験がウラン原爆の成功を意味するとすれば、北朝鮮が、実用規模の濃縮ウラン生産能力を有することを示唆するものであり、国際社会への供与を通じて核拡散の潜在的危険性が高まることも懸念されている。

北朝鮮が、キム・ジョンウン体制下においても「瀬戸際外交」の一環として核実験を続ける背景には、別途開発中の長距離弾道ミサイルに搭載してアメリカ本土を攻撃できる小型核弾頭の開発によってアメリカを交渉の席に引き出し、現政治体制の保証を取りつけるとともに、緊張関係にある韓国や日本を牽制する狙いがあるものと考えられている。言うまでもなく、福島原発災害を見れば明らかなように、北朝鮮が日本に核被害を与えるには日本海側に立ち並ぶ原発を通常兵器で攻撃すれば事足りるので、国際社会を敵に回して核兵器を開発する必要はない。したがって、北朝鮮の核兵器開発は「対アメリカ外交戦略の一環」としての性格が主であることを認識することが重要であり、いやしくも「対抗して日本の核武装を追求する」といった選択肢をとるべきではないと確信する。

核兵器を外交の手段として弄ぶ北朝鮮に対しては、軍事衝突への緊張関係を高める冒険主義的な政策を直ちに放棄することを求めるが、一方、こうした核兵器の拡散が止まらない背景には、米ロを始めとする核保有国の「核抑止政策」があることは明白であり、その転換なくして根本的な解決はあり得ない。核超大国が核拡散を批判することは、「ヘビースモーカーによる禁煙運動」と揶揄されてきたが、私は、友人であるロバート・グリーン氏(元イギリス海軍将校の反核活動家)が著書『核抑止なき安全保障』(かもがわ出版)において指摘しているように、核大国が「国家による信用詐欺」としての核抑止政策をきっぱりと放棄し、核兵器全面禁止・廃絶への人類史的潮流を創り出すことを改めて強く求めるものである。
2013年2月12日

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