2013年3月15日、安斎科学・平和事務所所長、安斎育郎は環境大臣室での学習会に講師として招請された。福島原発事故に伴う放射線の被災実態をどう見るかについて、環境行政関係者(環境大臣、副大臣、政務官、官房長、環境政策局長ら)の、この問題に関する認識を深めるための非公式勉強会といった性格のもので、下記レジュメなどを踏まえた私の冒頭の問題提起を踏まえて、1時間程、熱心な質疑応答と意見交換を行なった。放射線の被害を考えるときの参考にしてほしい。
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原発事故被災者の放射線被曝の実状をどうみるか?
安斎育郎(安斎科学・平和事務所/所長)
1 基本スタンス
- 隠すな、ウソつくな、過小/過大評価するな
- 事態を侮らず、過度に恐れず、理性的に怖がる
- 産地で恐れず、実態で恐れる
- 被曝についても「実態の把握」が何よりも重要である
2 放射線の影響
- 低レベルの放射線の影響は、専門家による調査・研究と、抑圧されない自由な相互批判によって、合意形成が目指されるべきものである。
- 低レベル放射線の影響については定量的にリスクを確定できる状況ではなく、放射線防護学的には「被曝は少ないに越したことはない」という立場がとられる。
- 放射線の影響は、身体的・遺伝的・心理的・社会的影響の広範囲に渡る。現在、心理的・社会的影響が優越している。
3 原発事故の被災実態
(1)概況
避難先の生活者については、外部被曝・内部被曝ともに、放射線影響を苦にしなければならないレベルではない。
(2)外部被曝
- 実生活に伴う外部被曝は、モニタリング・ポストの数値から単純に推定されるレベルよりは実態として低い。
- 外部被曝の多寡は、保育園や学校や会社での被曝よりも、居住環境の違いによる影響が優越している。
- 被災地だけでなく、日本各地、世界主要地で実測することが被曝の実態把握には手っ取り早い。
(3)内部被曝
- 各方面での陰膳調査などによれば、福島も含めて被災地の食品が憂慮すべき放射能汚染を被っている実態はない。
- 日常生活を通じての内部被曝に関しては、カリウム40を中心とする自然放射性物質による寄与が優越している。
- 食品汚染の実態監視を継続するとともに、体内汚染の程度を把握するためにホールボディ・カウンターによる測定を続けるのが良い。
4 追加的コメント
(1)同じことを言うにも「表現」には細心の注意を必要とする。
(2)「放射能/放射線リテラシー」の涵養は政財界人、行政スタッフ、市民ボランティア、生活者それぞれに不可欠である。
(3)より被曝実態の大きなものを引き合いに出して原発事故由来の被曝を些少に印象づける「悪しき相対性理論」に陥らず、誰もがやむを得ず被曝する自然放射線による被曝実態を客観的に把握し、参考値とすることが好ましい。