放射能から命を守るシリーズ第18回 「脱原発をめぐる最近の議論について」

2014年2月19日収録
講師:安斎育郎(ASAP所長)(専門:放射線防護学・平和学)

安斎科学・平和事務所がおとどけする放射能から命を守るシリーズ18回目、
今回のテーマ「脱原発をめぐる最近の議論について」。
安斎所長、おねがいします。

安斎育郎:
先日、東京都知事選があって、細川(護煕)さんっていう候補者が小泉純一郎元首相の応援を得て脱原発論を華々しく展開したんですよね。
その問題を話題に取りながら、お話をしてみたいと思います。

私自身は、相変わらず、ここ10カ月くらい毎月連続で福島に行って、行くたびに測定してきたことなどをまとめて、どうすれば、もっと安全になるかという提言をしているのですが。

さいわい、福島の保育園の園児たちの被曝などは、まぁ、徐々に減っている傾向にはあるということでその意味では、予想よりも低めだなぁ、ということで多少の安心はしているんですけれども、しかし、福島を含めた被災地に降りつもっている放射能の内で、例えばセシウム137という、今一番外部被曝の原因になっている放射性物質ですが、それの減り具合は、このグラフで横軸に年数、縦軸に(その年数に応じて)放射線がどれだけ減るかとっています。

それで見ると、まあ、0.1、つまり、10分の1に減るのに100年かかるということなので福島ではこれから数十年から100年単位で放射能と向き合う生活を余儀なくされているということなんですね。

ところが、このまえ、東京都知事選でも問題になった原発問題については、小泉純一郎氏は、
”放射性廃棄物の問題、これから10万年先まで面倒をみなければいけないかもしれない”
ということについて提起したんですよね。

そのことについて世間に知らされたのは、去年(2013年)の8月で小泉さんがフィンランドのオンカロという廃棄物処分場を視察に行った。
それも、単独で行ったわけじゃなく三菱重工とか、東芝とか、日立製作所とかゼネコンの幹部5人を伴って(核廃棄物最終処分場の建設現場へ)行ったんですね。

で、その人たちは原発を推進すべきだという意見をもっている人たちで、その人々と一緒に行って「原発からは脱出すべきだ」ということを強く主張してきて、それはまぁ、終始一貫して(主張した)。
で、オンカロの核廃棄物処分場を見て、ますますそれを確信するに至ったと(言っている)。

で、そのことを東京都知事選にも、原発問題を主要な争点の一つにして、(東京都知事選挙に出馬した)細川元首相を応援したということなんですよね。

それについては、政治的には結果として脱原発の世論を2分することによって、原発を推進する候補者に肩入れする結果を招いたのではないか?という見方もなくはないけれども、やっぱり原発問題については、元首相の2人が問題提起したってことの影響は大きかったし、これからも残ると思うんですよね。

核廃棄物のガラス固化後の放射線放出量の推移グラフ

核廃棄物のガラス固化後の放射線放出量の推移グラフ


放射性廃棄物という、原発から取り出したものをガラス固化体といって、ガラスに混ぜこぜにして、それを鋼鉄製のボンベに入れて地下数百メートルとかに埋設しておこうというのですが、その核廃棄物の放射能の減り方はこのような具合であるというんですね。

これは、縦軸も横軸も対数という目盛りでとってあるので、ちょっとわかりにくいんですけども、これが最初の放射能で、だいたい1万×テラベクレルというたいへん大きな百兆ベクレルの単位で、1万ちょっとだったものが、最初緩やかに減って、ある時期になると、まあ、こういう減り方の放射性物質が主要なったと。
こういう変化を繰り返しながらいくんですがここにピンク色の線が引いてあるのが10万年後ですね。

10年、100年、1000年万、1万年、10万年、100万年、1000万年まで書いてありますけれども、それと、横に点線がありますが、これが天然にあるウランという原発の燃料になるものが持っている放射能のレベルがこれぐらい。
だから、そのウランを使って、原発を運転して、出来た放射性物質のレベルが(この点線のラインの)元のレベルに戻るのにだいたい10万年かかるというというので、よく、数万年前から10万年しっかり管理しなきゃいけないともと通りにならないというふうに言われているわけですよね。

小泉さんは、この時に(脱原発論を発表したとき)各新聞社のインタビューに答えていますけども、彼は、(記者から)
“突然、今原発をゼロにするなんていうのは乱暴ではないか?”
と言われたときに、どう応えたかというと、
「逆だよ」
と言ったんですよね。

“今、原発をゼロにしたら電力生産が思うにまかせなくなって、日本経済がダメになっていく、だから、(今原発をゼロにするなんてことは)暴論ではないか!”

っていう意見に対して、
「いや逆だよ」
て言ったんですね。

今、(原発)ゼロという方向を明確に打ち出さないと100年たっても結局なくすことはできないんだ、だから転換するならまさに、去年の流行語じゃないけど、今だよっていうのを強く主張したわけですよね。

彼によれば、野党はほとんど、”原発反対、脱原発でいく”と言っているのだから、総理大臣が決断しさえすれば具体的に反対なく国をあげてできることなんだということも主張したんですよね。
暴論だというけれども、そういうはなしは歴史上よくあるもんだと言って、彼は、なんて言ったかというと、昔、日本が戦争やって中国戦線に大軍を派遣していたときに
“満州から撤退するなんていうのは、暴論だ。そんなことやったら国が滅びる”
とかいう議論が、あったんだけども、満州から撤退しても別に日本国は、ちゃんと発達発展したではないかという例までだして、脱原発に即やることが暴論だという議論には、彼は賛意を示さなかったんですね。
依然として脱原発というふうに言っています。

おまけに、彼は、”必要は発明の母”っていうわけですけれども、そのことについても触れていて、
「原発をゼロにする必要があるということで、皆が一致すればそれをなし遂げるためにどういう工夫が必要かっていうことが出てきて、そこから知恵が生み出されてくるんだから突き進むべきである」
と、言っているんですよね。

彼が見た、フィンランドのオンカロというところが、世界でたった一つの核の廃棄物の最終処分場を造る工事をやっているところで、まだ使ってるわけじゃないんですね。
使い始めるのは、2020年から1部を利用し始める。
驚くべきことに、世界に数百基も原発があるのに対して、廃棄物処分場として利用可能なところは、いまひとつもない。

唯一、そのために工事やっているのが、フィンランドのオンカロで、そこを見て小泉純一郎さんが、ますますもって、これは駄目だと、日本のような地震の巣窟っていいますかね、プレートのせめぎ合いをやっているようなところで、こういう原発に依存した電力生産をいつまでも続けているというのは、無謀であると。

そして、ただちに方向転換することによって将来の日本の安全が確保されるんだということを言ったというわけですよね。
彼は総理大臣のときには原発を推進する側に組しており、(当時は)国会の答弁などでも原発は推進すべきだということを言っていたんですけれども、変わったんですね。
変わったときに、マスコミから”何故変わったのか”と、問われて、
「それは、福島原発を見るにつけ変わった。そして、そのフィンランドのオンカロを見て、ますますそれが、確信に変わった」
と言ってるんですよね。

だけど、新聞記者が、
“福島原発事故が起こったにも関わらず、変わらないひとがいるじゃないか”
と言った時に、彼は、
「それは、まぁ感性の問題だ」
と、こう突っぱねて、”自分は、原発は無くす”っていうことでこれからいくんだと、
「国会議員で自分が、もし、現役に復帰して、説得するとしたら、”原発を推進する”っていうことで他の議員を説得できるかっていうと、それは自信が持てない」
と、彼は言っているんですね。

「”原発をゼロにする”ということだったら、自分は説得する自信がある」
ということを、彼(小泉純一郎氏)は言ってるんですね。

そういうことをからして原発批判の立場を40年余りとってきた、私にとっても
“いまさらながら”っていう感じは、するけれども、小泉さんの、そういう主張ですね。
それには理由があり、ちゃんと、それを推進する合理的な、基盤があると思うんです。だから、進めなければいけない。

それで前々から、一度、直接会って、話をしたいものだという気持ちを持っているんですけれども。
私としても、まさに原発ゼロというのは、今決断しないといつまでたってもできないという彼の認識を共有しながら、その方向で、具体的にどうすればいいかということを、これからも、問題提起していきたいと思っています。

今日は、そういうことで問題提起をして、皆さんの、議論のタネを提供して終わりにしたいと思います。

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