平和友の会連載「世相裏表」2020年1月号原稿

ウサギとカエルの壁画

安斎育郎

●新たな年の初めに

何やら中東や朝鮮半島界隈で、アメリカがらみの不穏な黒雲が漂いつつ2020年は明けました。「あけ ましておめでとうございます」という年頭の常套メッセージは、「あけたからと言って自動的にめでた い訳ではない」という思いを抱かせます。私はFM放送「ラジオカフェ」で「安斎育郎平和・原発独り 言」という15分番組を毎月放送していますが、1月の放送でこのことに触れました。私たちが新しい時 代を切り開くために「時のドアを開け」、意志と行動力をもって主権者にふさわしい行動をとれば「め でたいこと」も起こるかもしれないが、年が明けたから自動的にめでたい訳ではないという趣旨です。 旧年から新年に移り変わる過程で、3つのことに取り組みました。一つは2029年12月で68回目を迎え た「福島プロジェクト調査」の報告書のとりまとめ、二つ目は大腸内視鏡検査、三つめはわが家の塀に 鳥獣戯画の壁画を描くこと、です。テレビで報じられる中東情勢にやきもきしながらも、まずは出来る ことを着実にこなし、少しは年末年始らしい楽しみにも取り組もうという次第ですが、この三つ、いず れも成し遂げました。大腸にはポリープがありましたが、その場で内視鏡手術をし、「きれいになった ので、1年後にもう一度検査しましょう」ということになりました。「事実と向き合う」のが科学者と しての私の基本的スタンスなので、胃カメラも大腸内視鏡検査も結構楽しみに受診しています。福島の 保育園から頼まれた「台風19~21号の大雨による園児の散歩ルートの放射線環境の変化のチェック」も 、測定の結果むしろ放射線レベルは減衰しており、懸念するようなことはないことが判明し、報告書に はそのように書きました。

●ウサギとカエルのラグビー壁画

わが家では2~3年に一度の割合で塀の色を塗り替える習慣がありますが、12月に孫の提案で山吹色に塗りました。私はここに「トナカイのそりでやって来たサンタクロースが、地元宇治の『源氏物語』にちなんで十二単姿の紫式部にプレゼントを渡している場面」を描いて、洋の東西の交流をテーマに少し珍奇な壁画にしようという魂胆を持っていたのですが、さすがに珍奇すぎるとの意見もあって沙汰闇になりました。そこで思いついてのが、ラグビー人気にあやかって「ラグビーに興じる鳥獣戯画」というアイデアで、ウサギ・チームとカエル・チームの対抗戦ということにしました。

実際はカラー版で、カエルには白とピンクの縞々のラガーシャツを着せました。塀全体でカエルがパスしたボールの前後にそれぞれ身構えるウサギとカエルを描きました。
そして、試合終了(ノーサイド)の後は餅つきに興じ、酒を酌み交わし、ダンスするウサギとカエルを描きましたが、門扉の左右には、風神・雷神となったウサギとカエルを描いて完成としました。

最初のアイデアがサンタクロースと紫式部による古今東西の交流がイメージでしたので、ウサギとカエルを選んだのにも隠された意味付けがあります。
ウサギは大国主命に救われる「因幡の白兎」の神話にちなんで「神」の象徴、カエルは奈良の金峯山寺(きんぷせんじ)に伝わる話(仏教をないがしろした人間がカエルに変えられたのを、仏法の力で再び(金峯山寺で)人間に戻される話)にちなんで「仏」の象徴ということにしました。壁画全体のメッセージは、神と仏がそれぞれの役割を担いつつ、楽しく融合して平和裏に暮らそうということです。日本では長く「神仏習合」という習慣があり、神と仏は実に仲良くやってきました。先日、相国寺第7代管長で山外塔頭である金閣寺(鹿苑寺)と銀閣寺(慈照寺)の住職でもある有馬頼底さんと対談し、それは近々かもがわ出版社から『宗教者と科学者のとっておきの対話─人のいのちと価値観をめぐって』という本となって刊行される予定ですが、対談場所となった相国寺境内にも「相国寺を守る神社」があります。「本地垂迹」(日本の八百万の神々は、実は様々な仏が化身として日本の地に現れた権現であるという考え方)や「神本仏迹」(逆に、仏が神の権化で、神が主で仏が従うという考え)などは、何か「とってつけたような感じ」がしなくはありませんが、神と仏を関連づけてとらえようとする考え方です。
「福島プロジェクト調査」で福島各地を訪れると、被災した家の中に神棚と仏壇が仲良く共存している姿にしばしば出会います。
2020年、そんなことで対立せずに、世界と日本の難題を解決するために大いに知恵を集めたいとおう思いも重ねて、暮れから正月にかけて通りがかりの人と交流しながらこんな壁画を仕上げた、それはそれでなかなか楽しい体験でした。